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論文が査読誌への公刊が決まるごとに、日本語で紹介文を書きます。
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少し前に以下の論文が産業組織分野では定評のある学術雑誌 (Journal of Industrial Economics) に受理されました。

Market competition, R&D and firm profits in asymmetric oligopoly, (co-authored with Junichiro Ishida and Toshishiro Matsumura).

設定は非常に単純です。各企業が最初に(限界)費用削減投資をします。努力をすると、1単位当たり生産費用が下がる投資です。その投資の後に数量競争 (Cournot competition) を行います。これだけです。

上記の簡素な設定に、投資をする前の費用水準が異なっている状況を取りこんでいます。分析を簡素にするために、1社だけ事前の費用水準が低く、他は少し高い費用水準の状況を設定しています。この初期設定から、同じ費用削減技術を用いて費用削減をします。初期時点で費用が低い分だけ、同じ努力をしても、事前の費用格差がある分だけ優位性は維持できる状況を考えています。

一見すると、大した結果が出てこないような設定ですが、この設定を用いて、企業数の変化を分析すると幾つかの興味深い結果が出てきます。1つは、初期時点での(少し初期費用の高い)企業数が多くなると、その企業数増加とともに、1社だけ存在していて費用上の優位性を持っている企業の投資努力が増加します。言い換えると、企業数で競争の程度を測ると、競争の程度が増すと投資を熱心に行う可能性があるという事です。そして、この初期時点での格差が大きい場合、ある程度の企業が存在する状況から、更に企業が増えると、優位性を持った企業の利潤が増加するという結果が出てきます。競争相手が増えることで、自社の利潤が増える可能性があるという事です。この結果は、似た結果を導出した幾つかの研究 (Chen and Riordan (2007, Econ. J.)やIshibashi and Matsushima (2009, Market. Sci.)) とは仕組が異なっています。上記2つの論文は、参入が競争を緩め、市場価格を上昇させることで利潤が増える事を示していますが、今回の論文では、参入によって市場価格が低下し続けます。しかし、それ以上に、投資促進による競争相手の締め出し効果が支配して、参入によって利潤が増える企業が出現します。

非常に簡素な仕掛で通常の直観と異なる結果が出てきている点は、この論文の面白さの1つだと思います。この設定を他の設定に応用する事で、今まで説明できなかったような現象を説明できる可能性はありそうです。
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Journal of Economicsという雑誌に公刊されることになった論文を紹介します。

"Location equilibrium with asymmetric firms: the role of licensing" Toshihiro Matsumura, Noriaki Matsushima, Giorgos Stamatopoulos, forthcoming in Journal of Economics.

ほぼ同様の事をやっている事が判明したため、クレタ大学の方と一緒に作業する事になりました。メールを通じてですが、Stamatopoulosさんと一緒に作業をしましたが、メールへの反応が素早い事が印象に残っています。

Hotelling modelにおいて、企業の間に費用の非対称性が存在する場合、その程度が大きいと均衡が存在しない事が知られています(Ziss (1993, RSUE))。これに対して、混合戦略を求めた論文がありますが(Matsumura and Matsushima (2009, ARS))、この論文では、技術の優位性を持っている企業が競合相手に対してライセンスした場合に何が起こるか議論しています。この設定において、ライセンスをすると、相手の生産が増えてその増加によってライセンス料収入を得る事と、自分自身が生産量を増やして直接利益を得る事は、利益を得るという点で同じになります。この事によって、技術の優位性を生かして価格競争を挑むのではなく、ライセンスをした上でライセンス料をあてにした緩い価格競争をした方が得になります。この事を考慮すると、技術の優位性にある企業は、価格競争を有利にするために相手と同じような製品を作って独り勝ちするのではなく、ライセンスをして緩い競争をした方が得になります。その緩い競争を確保するためには、通常の設定で示されている通り(d'Aspremont et al. (1979, EMA))、最大差別化をした方が良くなります。また、この結果は、費用格差が立地前には分からない状況(不確実性のある技術投資をした下での立地選択をする状況)でも同じ事になりますので、最近出された不確実性のある技術投資のよって最小の差別化が実現する結果(Cristou and Vettas (2005, MSS), Gerlach et al (2005, JIndE))も覆る事になります。

紆余曲折した結果、何とか公刊できたのは良かったと思いますが、もう少し早く決まっても良かったと思っています。
Journal of Economicsという雑誌に公刊されることになった論文を紹介します。

"Privatization and entries of foreign enterprises in a differentiated industry" Toshihiro Matsumura, Noriaki Matsushima, Ikuo Ishibashi, forthcoming in Journal of Economics.

近年のグローバル化を踏まえ、外国資本が国内市場へ参入した場合の公企業の存在意義について、製品差別化の要素を取り込んで理論的に考察した論文です。ある国内市場に、公企業と国内民間企業と外国民間企業が存在し、各企業が差別化された製品を供給しています。この国の消費者は、価格が安く製品の品種が多いほど嬉しさが増す状況にあります。ここで、以下の2つについて考察しています。1つは、企業数が固定されている場合(短期)、もう1つは、民間企業が内外問わず自由に参入できる場合(長期)です。これら2つを比較し、各状況下での民営化の是非を議論しています。

外国資本が参入した場合の公企業の存在意義について理論的に分析した結果、民間企業が市場へ自由に参入できるか否かで結果が大きく異なることが示されました。参入が無い場合(短期の場合)、民営化で自国の厚生は悪化することが示されました。外国資本の比率が高いときほど、この傾向があることも示されました。一方、自由参入の場合(長期の場合)、短期の結果とは正反対で、外国資本の割合が高いほど民営化が厚生改善につながりやすいことを示しました。

この結果が出てくる理由は以下の通りです。公企業は消費者余剰を考慮するため、低価格にする傾向があります。この価格付けを参入企業は予想しますので、参入が見込まれる場合には、この低価格が民間の参入を抑制し、市場における財の多様性が損なわれます。参入が無ければ、公企業による低価格は消費者利益になり社会厚生を向上させることとは対照的です。この低価格は、外国企業の割合が高い程強く働きます。外国への余剰流出を防ぐために、公企業は低価格により競争を激しくして、外国企業の利益を減らそうとします。

この結果は、社会主義からの移行経済にある場合、公企業の民営化を行い外国資本の導入を積極的に行う方がよいことを示唆していると思います。また、民営化を行う際には、それを単独で行うのではなく、参入制限も緩和(廃止)することを同時に行わないと逆効果になりうることも示唆しています。
昨年末に、Journal of Public Economics という雑誌に論文の掲載が決まったので、その論文の概要を書きます。今回は査読手続が速く、投稿から2ヶ月程度で改訂要求が届き、改訂に2ヶ月弱を費やし(全ての時間、これに着手したわけではないけど)、再投稿後1ヶ月半で条件付き受理になりました。色んな意味でうまく事が運んだ論文といえます(ただ、この前に棄却されており、そのレポート内容が全く駄目で困ったのですが)。

Should civil servants be restricted in wage bargaining? A mixed-duopoly approach (with Junichiro Ishida)

この論文では、公務員賃金と民間賃金をある程度釣り合わせる政策の社会厚生へ与える効果を分析するために、公企業と私企業が競争する市場(mixed markets)を想定して分析を行いました。基本の設定はDe Fraja (1993, Oxford Econ. Papers)を借りており、公企業と私企業が1社ずつ存在し、その各企業に人材を供給する労働組合が存在する状況を記述しています。最近の日本では、あまり組合が強くないので、モデル設定と若干の乖離があるのですが、カナダや欧州の多くの国では、このモデル設定のような市場は存在しています。この下で、公企業の労働組合に賃金規制をかけます。公務員賃金は民間のx%とする(xは100以下)、という類の規制です。このような規制がかかると、公務員の組合には不利なようですが、この設定では必ずしもその様にはなりません。ここで扱っているような市場では、公企業は社会厚生の事も考え、市場価格が低下するように沢山の生産を行います(公企業が赤字にならない範囲で)。公務員の賃金が下がることで、この活動を促進する事になりますから、結果として、公企業の生産が伸びて、賃金の下落をカバーするだけの雇用が発生して、公企業の組合には有利に働く可能性を示しました。
Open Economies Reviewという国際経済学の雑誌に出ることになっている論文を紹介します。

Profit enhancing parallel imports (with Toshihiro Matsumura)

この論文は、ある大学に着任した年に考えて、最初に投稿したのは2002年7月8日でした。その後、投稿戦略を間違えたため、こんなに時間がかかってしまいました。戦略の間違いというよりは、単に、某雑誌に投稿したら2年以上待たされただけなんですが(これが2度起きた)。こういう悲惨な事が起こらないように、もう少し考えて投稿先を選ぼうと思いました。

標準的な発想をすると、価格差別を自由に行える方が企業の利益は増えると思います。例えば、市場が2つ存在する時に、各市場で同じ価格を設定しなくてはいけない、という制約があるよりも、各市場で異なる価格を付けてもよいという状況の方が利益が大きいと予想されます。

この価格付けの自由を制限してしまうものの1つに、並行輸入と呼ばれるものがあります。ある国へ輸出した製品を仲介業者のような第3者が買い取って、それを輸出元の国で販売するものです。この様な行動をする理由は、このある国と輸出元の国の価格を比較した時に、輸出元の国で高い価格が付いているからです。輸出元が先進国で、ある国が途上国の場合、この様な事は起こりえますし、実際に、しばしば、ここで述べた仲介業者が行っていることは観察されます(製薬では非常に問題になっていて、製造原価を考えると途上国で安く売るとが可能であるにもかかわらず、この仲介業の活動が起こるため、製薬会社が途上国での販売を止めてしまい、途上国の人たちが必要とする薬剤が届かないという問題が起こっています)。

ここで問題にしていることは、このような仲介業の活動が、本当に企業利潤を損なうのか否かという点です。実際に、幾つかの研究で、このような活動が元々の製造会社を助ける可能性を指摘しています。

この論文では、途上国市場での競争という観点を導入して分析をしています。その結果、仲介業の活動が製品単価に比べて高い場合には、この様な活動が製造会社を助けることが示されました。この結果は、DVDの価格とRegion Codeの関係と関連があるかもしれません(低価格の製品では、Region Code を取り入れずに仲介業の動きを許容するけど、高価格品では、その活動に制限を与えるためにRegion Code を取り入れている)。
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