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論文が査読誌への公刊が決まるごとに、日本語で紹介文を書きます。  学部教育を行う部局に配置換となったので、再開しました(2025年4月1日)
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2024年度に大阪大学大学院博士後期課程を修了したQiuyu LuさんとTilburg大のShiva Shakharさんと共同で執筆した論文(Welfare implications of personalized pricing in competitive platform markets: The role of network effects)が欧州産業経済学会(EARIE)の雑誌であるInternational Journal of Industrial Organizationに受理されたので、この内容を紹介します。

近年、情報通信技術が劇的に進歩したことで、消費者の情報を高い確度で把握できるようになっています。この情報を活用して、消費者個別の取引条件である個別価格を提示することも技術上は可能になっています。例えば、運転手と移動手段を求める消費者をつなぐUberは、利用者の位置情報などを利用して個別の料金を設定できます。この技術の進歩を踏まえて、個別価格が競争に与える影響の研究が増えています。

ここで紹介する論文では、売り手と買い手を仲介する企業であるプラットフォーム企業(前述のUberやUberEatsなど)による消費者向け個別価格が経済厚生に与える影響を、既存研究で用いられている分析枠組みを使って考察しています。

この考察では以下の仮定をおいてます。売り手の収入はプラットフォームに参加している消費者数に比例して増えます。この消費者数に応じて収入が増える効果は、市場間ネットワーク効果(cross-market network effect)と呼ばれます。この収入にプラットフォームが決定した料率を乗じた分だけ各売り手はプラットフォームに利用料として支払います。買い手の便益はプラットフォームを利用することからの便益に加えて各売り手との取引から得られる便益も得られます。後者の便益は売り手の数に比例して増えます。この便益も市場間ネットワーク効果と呼ばれます。各プラットフォームは消費者に対してプラットフォームに参加するための料金を課します。この料金体系として、両プラットフォームが均一料金を設定する場合と、両プラットフォームが個別価格を設定する場合を分析し、これら2つの場合を比較することで、個別価格の効果を分析します。

個別価格の特性として、個別価格を受け取った消費者にだけ認識されることを仮定しています。この仮定が結果に直接影響することを示しました。

個別価格に秘匿性がある場合、プラットフォームが設定する消費者向け価格を売り手に信頼できる形で発信できません。この特性によって、プラットフォームは個別価格を負の価格にしてまで消費者を獲得する誘因がなくなり、個別価格による価格競争で実現する価格の下限はゼロになります。

これに対して、観察可能な均一価格の場合、この価格を低く設定すれば売り手に消費者を獲得する意思が強いことを信頼させられます。よって、低い均一価格を設定して、売り手の数を増やしやすくなります。この均一価格の特性によって、プラットフォームは均一価格を低く設定する傾向が強くなります。この傾向は売り手の市場間ネットワーク効果が強いときほど強く働き、この効果が強い場合は、個別価格を設定しているときの平均個別価格よりも低くなることがあります。よって、売り手の市場間ネットワーク効果が強い場合、観察可能な均一価格は個別価格よりも競争促進効果が強くなります。このことから、売り手の市場間ネットワーク効果が強い場合、個別価格の方がプラットフォーム企業の利潤は大きくなりやすく、消費者厚生は低くなりやすいです。

ここで示した結果が成立する競争環境を確認するために、いくつかの拡張も行っています。
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Chongwoo ChoeさんとShiva Shakharさんと共同で執筆した論文について紹介します。この文章は、このHPからの転記です。

欧州連合(EU)や米国の加州で施行されている個人データ保護の法律によって、個人データを取扱う事業者が個人データを利用する際に、各消費者から同意を得ることが必要となっています。各消費者の判断で個人データが扱えるようになること自体は望ましいと考えられますが、個人データを利活用して収益を得ている事業者にとってはデータ利用に制限がかかるため、価格付けの方針を変更する可能性がありますし、この方針変更は消費者にも影響を与えます。このことを踏まえて、本論文では、罰則規定が厳しい個人情報保護の規制が課されることで生じる市場環境の変化を分析するために、極めて簡単な独占事業者の問題を設定しました。

この設定を分析して規制が存在しない場合と存在する場合を比較した結果、消費者が獲得できるデータ提供から得られる便益(x)と1単位の消費者データから得られる利益(α)の合計が小さいと規制が企業利潤Πや消費者余剰CSを改善する傾向にあり(ΔΠ>0,ΔCS>0)、xとαの合計が中程度だと企業利潤は改善するものの消費者余剰は悪化して(ΔΠ>0,ΔCS<0)、xとαの合計が大きいと企業利潤と消費者余剰は悪化します(ΔΠ<0,ΔCS<0)。



規制がある場合、収益の源泉であるデータを獲得しにくくなるため、低価格により需要を増やしてもデータを獲得しにくいので価格を高くします。また、データ提供に対する不快感が大きい消費者はデータ提供しないで購入できるので、このような消費者の需要を新たに獲得できます。後者の効果が大きい場合(データ提供から得られる便益(x)が小さい場合)や消費者データから得られる利益(α)が小さい場合には、規制が企業利潤や消費者余剰を改善することになります。

少し前に公刊された製品差別化の理論分析について紹介します。

Takeshi Ebina, Noriaki Matsushima, and Daisuke Shimizu. 2015. Product differentiation and entry timing in a continuous time spatial competition model, European Journal of Operational Research 247(3), 904-913. 


Hotellingによる線分都市を用いた製品差別化モデルを用いて、市場規模が連続時間で次第に拡大する状況における先発企業と後発企業の製品特性選択と後発企業の参入時点選択について分析しました。これまで分析されてきた線分都市で価格競争を行う理論枠組みでは、生産が一回だけの状況を考えており、企業が価格競争の緩和を狙って製品を最大限差別化することが広く知られています。これに対して、本論文では、連続時間の下、各時点で財の供給が起こる設定に変更しています。線分都市の中心に立地することで、後発企業が参入した後に生じる価格競争を厳しくして複占時における市場の収益性を下げて後発企業の参入を遅らせる誘因があることを示しました。また、Hotellingによる製品差別化モデルでは、消費者が被る移動費用の大きさを表す外生パラメータを製品差別化の程度として捉えますが、このパラメータの値が小さい状況で先発企業の利潤が大きくなりやすいことも示しています。連続時間のモデルに拡張することで、従来の製品差別化モデルにおける結果とは模様の異なる結果を導出したという意味で、一定程度の面白さを有した論文といえると思います。

昨年、経営戦略の経済分析で定評のある学術誌 Journal of Economics & Management Strategy に公刊された論文を紹介します。

Toshihiro Matsumra and Noriaki Matsushima. 2015. Should Firms Employ Personalized Pricing? Journal of Economics & Management Strategy 24(4), 887-903. 

製品差別化と価格差別(価格戦略)の関係を考慮して、技術投資の誘因について分析しました。英国のTescoをはじめとする欧州における幾つかの大型小売店では、個別消費者ごとの価格差別戦略を採用していて、この実例が研究の動機づけになっています。価格差別戦略を採用するか否か判断する際、営業効率性改善努力(ある種の技術投資)の問題が影響することを明らかにしました。品質や費用の面で優位性を持っている企業が価格差別戦略を採用する傾向にあり、それらの面で劣る企業は競争を緩和するために価格差別戦略を回避する傾向にあることを明らかにしました。これは、英国においてTescoと競合する小売店であるAsdaが価格差別戦略を放棄したことの説明理論として価値がある成果だと思います。
長い間更新していなかったのですが、改めて執筆しなくても情報更新する材料が手元にあることに気が付いたので、赴くままに更新します。

数年前に、Transportation Research Part B: Methodologicalという交通分野で定評のある学術誌に公刊が決まった論文を紹介します。

"Port privatization in an international oligopoly" Noriaki Matsushima and Kazuhiro Takauch, Transportation Research Part B: Methodological. Vol. 67, pp. 382-397.

2012年にJapanese Economic Reviewに掲載された論文における航空輸送の設定を海運輸送に応用し、港湾民営化と港湾業務改善投資の関係について分析しました。市場に二国存在し、各国に立地する企業が自国と他国に財を供給する状況を考えました。各企業が輸出する際、自国と他国の港湾施設を利用する必要があり、その際に港湾利用料を支払います。重工業製品では海運が輸送の主力であり、港湾利用は重要な要因といえます。この設定の下、各国間の輸送環境が改善(輸送費用が低下)することで、港湾の民営化が起こりやすくなることを明らかにしました。また市場規模が小さい国ほど民営化が起こりやすく、民営化された港湾と公営の港湾が共存する市場環境では、民営化された港湾の方が業務改善努力の誘因が強いことも明らかにしました。これらの結果は、関連する実証研究の結果や近年起こっている港湾民営化の流れと整合性があると思います。
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