論文が査読誌への公刊が決まるごとに、日本語で紹介文を書きます。
学部教育を行う部局に配置換となったので、再開しました(2025年4月1日)
Chongwoo ChoeさんとShiva Shakharさんと共同で執筆した論文について紹介します。この文章は、このHPからの転記です。
欧州連合(EU)や米国の加州で施行されている個人データ保護の法律によって、個人データを取扱う事業者が個人データを利用する際に、各消費者から同意を得ることが必要となっています。各消費者の判断で個人データが扱えるようになること自体は望ましいと考えられますが、個人データを利活用して収益を得ている事業者にとってはデータ利用に制限がかかるため、価格付けの方針を変更する可能性がありますし、この方針変更は消費者にも影響を与えます。このことを踏まえて、本論文では、罰則規定が厳しい個人情報保護の規制が課されることで生じる市場環境の変化を分析するために、極めて簡単な独占事業者の問題を設定しました。
この設定を分析して規制が存在しない場合と存在する場合を比較した結果、消費者が獲得できるデータ提供から得られる便益(x)と1単位の消費者データから得られる利益(α)の合計が小さいと規制が企業利潤Πや消費者余剰CSを改善する傾向にあり(ΔΠ>0,ΔCS>0)、xとαの合計が中程度だと企業利潤は改善するものの消費者余剰は悪化して(ΔΠ>0,ΔCS<0)、xとαの合計が大きいと企業利潤と消費者余剰は悪化します(ΔΠ<0,ΔCS<0)。
規制がある場合、収益の源泉であるデータを獲得しにくくなるため、低価格により需要を増やしてもデータを獲得しにくいので価格を高くします。また、データ提供に対する不快感が大きい消費者はデータ提供しないで購入できるので、このような消費者の需要を新たに獲得できます。後者の効果が大きい場合(データ提供から得られる便益(x)が小さい場合)や消費者データから得られる利益(α)が小さい場合には、規制が企業利潤や消費者余剰を改善することになります。
欧州連合(EU)や米国の加州で施行されている個人データ保護の法律によって、個人データを取扱う事業者が個人データを利用する際に、各消費者から同意を得ることが必要となっています。各消費者の判断で個人データが扱えるようになること自体は望ましいと考えられますが、個人データを利活用して収益を得ている事業者にとってはデータ利用に制限がかかるため、価格付けの方針を変更する可能性がありますし、この方針変更は消費者にも影響を与えます。このことを踏まえて、本論文では、罰則規定が厳しい個人情報保護の規制が課されることで生じる市場環境の変化を分析するために、極めて簡単な独占事業者の問題を設定しました。
この設定を分析して規制が存在しない場合と存在する場合を比較した結果、消費者が獲得できるデータ提供から得られる便益(x)と1単位の消費者データから得られる利益(α)の合計が小さいと規制が企業利潤Πや消費者余剰CSを改善する傾向にあり(ΔΠ>0,ΔCS>0)、xとαの合計が中程度だと企業利潤は改善するものの消費者余剰は悪化して(ΔΠ>0,ΔCS<0)、xとαの合計が大きいと企業利潤と消費者余剰は悪化します(ΔΠ<0,ΔCS<0)。
規制がある場合、収益の源泉であるデータを獲得しにくくなるため、低価格により需要を増やしてもデータを獲得しにくいので価格を高くします。また、データ提供に対する不快感が大きい消費者はデータ提供しないで購入できるので、このような消費者の需要を新たに獲得できます。後者の効果が大きい場合(データ提供から得られる便益(x)が小さい場合)や消費者データから得られる利益(α)が小さい場合には、規制が企業利潤や消費者余剰を改善することになります。
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少し前に公刊された製品差別化の理論分析について紹介します。
Takeshi Ebina, Noriaki Matsushima, and Daisuke Shimizu. 2015. Product differentiation and entry timing in a continuous time spatial competition model, European Journal of Operational Research 247(3), 904-913.
Hotellingによる線分都市を用いた製品差別化モデルを用いて、市場規模が連続時間で次第に拡大する状況における先発企業と後発企業の製品特性選択と後発企業の参入時点選択について分析しました。これまで分析されてきた線分都市で価格競争を行う理論枠組みでは、生産が一回だけの状況を考えており、企業が価格競争の緩和を狙って製品を最大限差別化することが広く知られています。これに対して、本論文では、連続時間の下、各時点で財の供給が起こる設定に変更しています。線分都市の中心に立地することで、後発企業が参入した後に生じる価格競争を厳しくして複占時における市場の収益性を下げて後発企業の参入を遅らせる誘因があることを示しました。また、Hotellingによる製品差別化モデルでは、消費者が被る移動費用の大きさを表す外生パラメータを製品差別化の程度として捉えますが、このパラメータの値が小さい状況で先発企業の利潤が大きくなりやすいことも示しています。連続時間のモデルに拡張することで、従来の製品差別化モデルにおける結果とは模様の異なる結果を導出したという意味で、一定程度の面白さを有した論文といえると思います。
昨年、経営戦略の経済分析で定評のある学術誌 Journal of Economics & Management Strategy に公刊された論文を紹介します。
Toshihiro Matsumra and Noriaki Matsushima. 2015. Should Firms Employ Personalized Pricing? Journal of Economics & Management Strategy 24(4), 887-903.
製品差別化と価格差別(価格戦略)の関係を考慮して、技術投資の誘因について分析しました。英国のTescoをはじめとする欧州における幾つかの大型小売店では、個別消費者ごとの価格差別戦略を採用していて、この実例が研究の動機づけになっています。価格差別戦略を採用するか否か判断する際、営業効率性改善努力(ある種の技術投資)の問題が影響することを明らかにしました。品質や費用の面で優位性を持っている企業が価格差別戦略を採用する傾向にあり、それらの面で劣る企業は競争を緩和するために価格差別戦略を回避する傾向にあることを明らかにしました。これは、英国においてTescoと競合する小売店であるAsdaが価格差別戦略を放棄したことの説明理論として価値がある成果だと思います。
Toshihiro Matsumra and Noriaki Matsushima. 2015. Should Firms Employ Personalized Pricing? Journal of Economics & Management Strategy 24(4), 887-903.
製品差別化と価格差別(価格戦略)の関係を考慮して、技術投資の誘因について分析しました。英国のTescoをはじめとする欧州における幾つかの大型小売店では、個別消費者ごとの価格差別戦略を採用していて、この実例が研究の動機づけになっています。価格差別戦略を採用するか否か判断する際、営業効率性改善努力(ある種の技術投資)の問題が影響することを明らかにしました。品質や費用の面で優位性を持っている企業が価格差別戦略を採用する傾向にあり、それらの面で劣る企業は競争を緩和するために価格差別戦略を回避する傾向にあることを明らかにしました。これは、英国においてTescoと競合する小売店であるAsdaが価格差別戦略を放棄したことの説明理論として価値がある成果だと思います。
長い間更新していなかったのですが、改めて執筆しなくても情報更新する材料が手元にあることに気が付いたので、赴くままに更新します。
数年前に、Transportation Research Part B: Methodologicalという交通分野で定評のある学術誌に公刊が決まった論文を紹介します。
数年前に、Transportation Research Part B: Methodologicalという交通分野で定評のある学術誌に公刊が決まった論文を紹介します。
"Port privatization in an international oligopoly" Noriaki Matsushima and Kazuhiro Takauch, Transportation Research Part B: Methodological. Vol. 67, pp. 382-397.
2012年にJapanese Economic Reviewに掲載された論文における航空輸送の設定を海運輸送に応用し、港湾民営化と港湾業務改善投資の関係について分析しました。市場に二国存在し、各国に立地する企業が自国と他国に財を供給する状況を考えました。各企業が輸出する際、自国と他国の港湾施設を利用する必要があり、その際に港湾利用料を支払います。重工業製品では海運が輸送の主力であり、港湾利用は重要な要因といえます。この設定の下、各国間の輸送環境が改善(輸送費用が低下)することで、港湾の民営化が起こりやすくなることを明らかにしました。また市場規模が小さい国ほど民営化が起こりやすく、民営化された港湾と公営の港湾が共存する市場環境では、民営化された港湾の方が業務改善努力の誘因が強いことも明らかにしました。これらの結果は、関連する実証研究の結果や近年起こっている港湾民営化の流れと整合性があると思います。
2012年にJapanese Economic Reviewに掲載された論文における航空輸送の設定を海運輸送に応用し、港湾民営化と港湾業務改善投資の関係について分析しました。市場に二国存在し、各国に立地する企業が自国と他国に財を供給する状況を考えました。各企業が輸出する際、自国と他国の港湾施設を利用する必要があり、その際に港湾利用料を支払います。重工業製品では海運が輸送の主力であり、港湾利用は重要な要因といえます。この設定の下、各国間の輸送環境が改善(輸送費用が低下)することで、港湾の民営化が起こりやすくなることを明らかにしました。また市場規模が小さい国ほど民営化が起こりやすく、民営化された港湾と公営の港湾が共存する市場環境では、民営化された港湾の方が業務改善努力の誘因が強いことも明らかにしました。これらの結果は、関連する実証研究の結果や近年起こっている港湾民営化の流れと整合性があると思います。
長い間更新していなかったのですが、改めて執筆しなくても情報更新する材料が手元にあることに気が付いたので、赴くままに更新します。
数年前に、Journal of Economic Behavior and Organizationという組織の経済学や行動経済学に関連する研究を中心に掲載する学術誌に公刊が決まった論文を紹介します。
"What factors determine the number of trading partners?" Noriaki Matsushima and Ryusuke Shinohara, Journal of Economic Behavior and Organization. Vol. 106, pp. 428-441.
複数の川下企業と取引可能な川上企業が存在する状況を考え、川上企業による取引範囲決定要因を分析しました。また、この基本設定を拡張して、川上企業による技術投資の誘因と取引範囲との関係を分析しました。その結果、川上企業の平均可変費用が逓減する状況では、狭い取引範囲を設定する方が川上企業にとって望ましい経済環境があることを明らかにしました。また、技術投資の水準についても、狭い取引範囲を設定しているときの方が高くなる可能性があることも明らかにしました。これらの結果は、経営学分野でしばしば指摘されていた、日本のサプライヤーシステムにおいて狭い取引範囲が形成されてきたことの説明理論として価値がある成果だと思います。
数年前に、Journal of Economic Behavior and Organizationという組織の経済学や行動経済学に関連する研究を中心に掲載する学術誌に公刊が決まった論文を紹介します。
"What factors determine the number of trading partners?" Noriaki Matsushima and Ryusuke Shinohara, Journal of Economic Behavior and Organization. Vol. 106, pp. 428-441.
複数の川下企業と取引可能な川上企業が存在する状況を考え、川上企業による取引範囲決定要因を分析しました。また、この基本設定を拡張して、川上企業による技術投資の誘因と取引範囲との関係を分析しました。その結果、川上企業の平均可変費用が逓減する状況では、狭い取引範囲を設定する方が川上企業にとって望ましい経済環境があることを明らかにしました。また、技術投資の水準についても、狭い取引範囲を設定しているときの方が高くなる可能性があることも明らかにしました。これらの結果は、経営学分野でしばしば指摘されていた、日本のサプライヤーシステムにおいて狭い取引範囲が形成されてきたことの説明理論として価値がある成果だと思います。