論文が査読誌への公刊が決まるごとに、日本語で紹介文を書きます。
学部教育を行う部局に配置換となったので、再開しました(2025年4月1日)
長い間更新していなかったのですが、改めて執筆しなくても情報更新する材料が手元にあることに気が付いたので、赴くままに更新します。
数年前に、Journal of Economic Behavior and Organizationという組織の経済学や行動経済学に関連する研究を中心に掲載する学術誌に公刊が決まった論文を紹介します。
"What factors determine the number of trading partners?" Noriaki Matsushima and Ryusuke Shinohara, Journal of Economic Behavior and Organization. Vol. 106, pp. 428-441.
複数の川下企業と取引可能な川上企業が存在する状況を考え、川上企業による取引範囲決定要因を分析しました。また、この基本設定を拡張して、川上企業による技術投資の誘因と取引範囲との関係を分析しました。その結果、川上企業の平均可変費用が逓減する状況では、狭い取引範囲を設定する方が川上企業にとって望ましい経済環境があることを明らかにしました。また、技術投資の水準についても、狭い取引範囲を設定しているときの方が高くなる可能性があることも明らかにしました。これらの結果は、経営学分野でしばしば指摘されていた、日本のサプライヤーシステムにおいて狭い取引範囲が形成されてきたことの説明理論として価値がある成果だと思います。
数年前に、Journal of Economic Behavior and Organizationという組織の経済学や行動経済学に関連する研究を中心に掲載する学術誌に公刊が決まった論文を紹介します。
"What factors determine the number of trading partners?" Noriaki Matsushima and Ryusuke Shinohara, Journal of Economic Behavior and Organization. Vol. 106, pp. 428-441.
複数の川下企業と取引可能な川上企業が存在する状況を考え、川上企業による取引範囲決定要因を分析しました。また、この基本設定を拡張して、川上企業による技術投資の誘因と取引範囲との関係を分析しました。その結果、川上企業の平均可変費用が逓減する状況では、狭い取引範囲を設定する方が川上企業にとって望ましい経済環境があることを明らかにしました。また、技術投資の水準についても、狭い取引範囲を設定しているときの方が高くなる可能性があることも明らかにしました。これらの結果は、経営学分野でしばしば指摘されていた、日本のサプライヤーシステムにおいて狭い取引範囲が形成されてきたことの説明理論として価値がある成果だと思います。
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しばらく前に、Games and Economic Behavior というゲーム理論関係の雑誌に公刊が決まった論文を紹介します。
"Collusion, agglomeration, and heterogeneity of firms" Toshihiro Matsumura and Noriaki Matsushima, Games and Economic Behavior.
この論文では、Hotelling modelにおける企業集積を議論しています。Hotelling (1929)による古典的な論文で、企業が集積する状況を描写していますが、この設定に企業間の価格競争を導入するとともに、幾つかの仮定を導入して全く異なる結果(企業は可能な限り製品差別化をする)を出した論文としてd'Aspremont et al. (1979)があります。この結果には尤もらしい側面もあるのですが(同じものを作ると、差別化できるものが価格だけになるため、熾烈な競争が起こる。これを回避するために差別化する)、都市という側面でHotelling modelを捉えると、都市集積が起こらない事を示したことになるため、結果に対して違和感を覚える研究者がいたと推測されます。
このd'Aspremont et al. (1979)の結果を『改善』するために幾つかの設定が提示されました。その中で有名な論文として、Jehiel (1992)とFriedman and Thisse (1993)があります。設定は若干異なるのですが、基本の特性は似ています。d'Aspremont et al. (1979)では、企業は製品特性(立地)を選択した後に、価格競争を行うという2段階の手続きを踏む状況を考えていました。この設定を若干変更しています。2段階目に価格競争を行うのではなく、価格設定で結託をする状況を考えています。結託時の利益ですが、この利益は、仮に結託をしなかった時に得られる利益の割合などに依存して決まる状況を考えています(この利益分配ルールが2つの論文で異なっています)。この設定では、競争した時に生じる利益の「割合」が結託利益に影響するため、結託が無かった時の「相対」利益が重要になります。言い換えると、相手よりも相対的に利益が大きい事が、結託時の利益拡大につながるわけです。相手よりも利益が大きい状況を作ることは、相手よりも大きい市場シェアを獲得する事と大凡対応します。これは、Hotelling の価格競争なしの設定と似た状況になっていて、結果として中央での集積という結果が得られるわけです。ここまでの議論で注意すべき事が1つあり、それは暗黙のうちに費用格差が存在しない事を想定していたことです。
今回の論文では、この中央集積は企業に僅かでも費用格差があれば成立しない事を示しています。これが成立する理由は、上記の設定で中央集積した時に起こることが、費用格差がある時と無い時で大きく異なるからです。費用格差が無い場合、競争した場合に両方とも同じ利益になるため利益は半分ずつになります。しかし、費用格差が僅かでもあれば、競争した場合、費用で優っている企業の利益は正(プラス)ですが、劣っている企業はゼロです。同じものを作っているので、安く作れる企業が消費者を総取りするからです。そうすると、利益の割合を計算した時、劣っている企業はゼロです。なので、集積している状況で結託をした場合、劣っている企業は何も取れません。それならば、競争した時の利益が正になるような立地(製品特性)を選択する事になります。この理屈によって、Jehiel (1992)とFriedman and Thisse (1993)によって示された中央集積の結果は、ある一点(費用が完全に対称の場合)でのみ成立するものであることが示されたことになります。
"Collusion, agglomeration, and heterogeneity of firms" Toshihiro Matsumura and Noriaki Matsushima, Games and Economic Behavior.
この論文では、Hotelling modelにおける企業集積を議論しています。Hotelling (1929)による古典的な論文で、企業が集積する状況を描写していますが、この設定に企業間の価格競争を導入するとともに、幾つかの仮定を導入して全く異なる結果(企業は可能な限り製品差別化をする)を出した論文としてd'Aspremont et al. (1979)があります。この結果には尤もらしい側面もあるのですが(同じものを作ると、差別化できるものが価格だけになるため、熾烈な競争が起こる。これを回避するために差別化する)、都市という側面でHotelling modelを捉えると、都市集積が起こらない事を示したことになるため、結果に対して違和感を覚える研究者がいたと推測されます。
このd'Aspremont et al. (1979)の結果を『改善』するために幾つかの設定が提示されました。その中で有名な論文として、Jehiel (1992)とFriedman and Thisse (1993)があります。設定は若干異なるのですが、基本の特性は似ています。d'Aspremont et al. (1979)では、企業は製品特性(立地)を選択した後に、価格競争を行うという2段階の手続きを踏む状況を考えていました。この設定を若干変更しています。2段階目に価格競争を行うのではなく、価格設定で結託をする状況を考えています。結託時の利益ですが、この利益は、仮に結託をしなかった時に得られる利益の割合などに依存して決まる状況を考えています(この利益分配ルールが2つの論文で異なっています)。この設定では、競争した時に生じる利益の「割合」が結託利益に影響するため、結託が無かった時の「相対」利益が重要になります。言い換えると、相手よりも相対的に利益が大きい事が、結託時の利益拡大につながるわけです。相手よりも利益が大きい状況を作ることは、相手よりも大きい市場シェアを獲得する事と大凡対応します。これは、Hotelling の価格競争なしの設定と似た状況になっていて、結果として中央での集積という結果が得られるわけです。ここまでの議論で注意すべき事が1つあり、それは暗黙のうちに費用格差が存在しない事を想定していたことです。
今回の論文では、この中央集積は企業に僅かでも費用格差があれば成立しない事を示しています。これが成立する理由は、上記の設定で中央集積した時に起こることが、費用格差がある時と無い時で大きく異なるからです。費用格差が無い場合、競争した場合に両方とも同じ利益になるため利益は半分ずつになります。しかし、費用格差が僅かでもあれば、競争した場合、費用で優っている企業の利益は正(プラス)ですが、劣っている企業はゼロです。同じものを作っているので、安く作れる企業が消費者を総取りするからです。そうすると、利益の割合を計算した時、劣っている企業はゼロです。なので、集積している状況で結託をした場合、劣っている企業は何も取れません。それならば、競争した時の利益が正になるような立地(製品特性)を選択する事になります。この理屈によって、Jehiel (1992)とFriedman and Thisse (1993)によって示された中央集積の結果は、ある一点(費用が完全に対称の場合)でのみ成立するものであることが示されたことになります。
少し前に以下の論文が産業組織分野では定評のある学術雑誌 (Journal of Industrial Economics) に受理されました。
Market competition, R&D and firm profits in asymmetric oligopoly, (co-authored with Junichiro Ishida and Toshishiro Matsumura).
設定は非常に単純です。各企業が最初に(限界)費用削減投資をします。努力をすると、1単位当たり生産費用が下がる投資です。その投資の後に数量競争 (Cournot competition) を行います。これだけです。
上記の簡素な設定に、投資をする前の費用水準が異なっている状況を取りこんでいます。分析を簡素にするために、1社だけ事前の費用水準が低く、他は少し高い費用水準の状況を設定しています。この初期設定から、同じ費用削減技術を用いて費用削減をします。初期時点で費用が低い分だけ、同じ努力をしても、事前の費用格差がある分だけ優位性は維持できる状況を考えています。
一見すると、大した結果が出てこないような設定ですが、この設定を用いて、企業数の変化を分析すると幾つかの興味深い結果が出てきます。1つは、初期時点での(少し初期費用の高い)企業数が多くなると、その企業数増加とともに、1社だけ存在していて費用上の優位性を持っている企業の投資努力が増加します。言い換えると、企業数で競争の程度を測ると、競争の程度が増すと投資を熱心に行う可能性があるという事です。そして、この初期時点での格差が大きい場合、ある程度の企業が存在する状況から、更に企業が増えると、優位性を持った企業の利潤が増加するという結果が出てきます。競争相手が増えることで、自社の利潤が増える可能性があるという事です。この結果は、似た結果を導出した幾つかの研究 (Chen and Riordan (2007, Econ. J.)やIshibashi and Matsushima (2009, Market. Sci.)) とは仕組が異なっています。上記2つの論文は、参入が競争を緩め、市場価格を上昇させることで利潤が増える事を示していますが、今回の論文では、参入によって市場価格が低下し続けます。しかし、それ以上に、投資促進による競争相手の締め出し効果が支配して、参入によって利潤が増える企業が出現します。
非常に簡素な仕掛で通常の直観と異なる結果が出てきている点は、この論文の面白さの1つだと思います。この設定を他の設定に応用する事で、今まで説明できなかったような現象を説明できる可能性はありそうです。
Market competition, R&D and firm profits in asymmetric oligopoly, (co-authored with Junichiro Ishida and Toshishiro Matsumura).
設定は非常に単純です。各企業が最初に(限界)費用削減投資をします。努力をすると、1単位当たり生産費用が下がる投資です。その投資の後に数量競争 (Cournot competition) を行います。これだけです。
上記の簡素な設定に、投資をする前の費用水準が異なっている状況を取りこんでいます。分析を簡素にするために、1社だけ事前の費用水準が低く、他は少し高い費用水準の状況を設定しています。この初期設定から、同じ費用削減技術を用いて費用削減をします。初期時点で費用が低い分だけ、同じ努力をしても、事前の費用格差がある分だけ優位性は維持できる状況を考えています。
一見すると、大した結果が出てこないような設定ですが、この設定を用いて、企業数の変化を分析すると幾つかの興味深い結果が出てきます。1つは、初期時点での(少し初期費用の高い)企業数が多くなると、その企業数増加とともに、1社だけ存在していて費用上の優位性を持っている企業の投資努力が増加します。言い換えると、企業数で競争の程度を測ると、競争の程度が増すと投資を熱心に行う可能性があるという事です。そして、この初期時点での格差が大きい場合、ある程度の企業が存在する状況から、更に企業が増えると、優位性を持った企業の利潤が増加するという結果が出てきます。競争相手が増えることで、自社の利潤が増える可能性があるという事です。この結果は、似た結果を導出した幾つかの研究 (Chen and Riordan (2007, Econ. J.)やIshibashi and Matsushima (2009, Market. Sci.)) とは仕組が異なっています。上記2つの論文は、参入が競争を緩め、市場価格を上昇させることで利潤が増える事を示していますが、今回の論文では、参入によって市場価格が低下し続けます。しかし、それ以上に、投資促進による競争相手の締め出し効果が支配して、参入によって利潤が増える企業が出現します。
非常に簡素な仕掛で通常の直観と異なる結果が出てきている点は、この論文の面白さの1つだと思います。この設定を他の設定に応用する事で、今まで説明できなかったような現象を説明できる可能性はありそうです。
Journal of Economicsという雑誌に公刊されることになった論文を紹介します。
"Location equilibrium with asymmetric firms: the role of licensing" Toshihiro Matsumura, Noriaki Matsushima, Giorgos Stamatopoulos, forthcoming in Journal of Economics.
ほぼ同様の事をやっている事が判明したため、クレタ大学の方と一緒に作業する事になりました。メールを通じてですが、Stamatopoulosさんと一緒に作業をしましたが、メールへの反応が素早い事が印象に残っています。
Hotelling modelにおいて、企業の間に費用の非対称性が存在する場合、その程度が大きいと均衡が存在しない事が知られています(Ziss (1993, RSUE))。これに対して、混合戦略を求めた論文がありますが(Matsumura and Matsushima (2009, ARS))、この論文では、技術の優位性を持っている企業が競合相手に対してライセンスした場合に何が起こるか議論しています。この設定において、ライセンスをすると、相手の生産が増えてその増加によってライセンス料収入を得る事と、自分自身が生産量を増やして直接利益を得る事は、利益を得るという点で同じになります。この事によって、技術の優位性を生かして価格競争を挑むのではなく、ライセンスをした上でライセンス料をあてにした緩い価格競争をした方が得になります。この事を考慮すると、技術の優位性にある企業は、価格競争を有利にするために相手と同じような製品を作って独り勝ちするのではなく、ライセンスをして緩い競争をした方が得になります。その緩い競争を確保するためには、通常の設定で示されている通り(d'Aspremont et al. (1979, EMA))、最大差別化をした方が良くなります。また、この結果は、費用格差が立地前には分からない状況(不確実性のある技術投資をした下での立地選択をする状況)でも同じ事になりますので、最近出された不確実性のある技術投資のよって最小の差別化が実現する結果(Cristou and Vettas (2005, MSS), Gerlach et al (2005, JIndE))も覆る事になります。
紆余曲折した結果、何とか公刊できたのは良かったと思いますが、もう少し早く決まっても良かったと思っています。
"Location equilibrium with asymmetric firms: the role of licensing" Toshihiro Matsumura, Noriaki Matsushima, Giorgos Stamatopoulos, forthcoming in Journal of Economics.
ほぼ同様の事をやっている事が判明したため、クレタ大学の方と一緒に作業する事になりました。メールを通じてですが、Stamatopoulosさんと一緒に作業をしましたが、メールへの反応が素早い事が印象に残っています。
Hotelling modelにおいて、企業の間に費用の非対称性が存在する場合、その程度が大きいと均衡が存在しない事が知られています(Ziss (1993, RSUE))。これに対して、混合戦略を求めた論文がありますが(Matsumura and Matsushima (2009, ARS))、この論文では、技術の優位性を持っている企業が競合相手に対してライセンスした場合に何が起こるか議論しています。この設定において、ライセンスをすると、相手の生産が増えてその増加によってライセンス料収入を得る事と、自分自身が生産量を増やして直接利益を得る事は、利益を得るという点で同じになります。この事によって、技術の優位性を生かして価格競争を挑むのではなく、ライセンスをした上でライセンス料をあてにした緩い価格競争をした方が得になります。この事を考慮すると、技術の優位性にある企業は、価格競争を有利にするために相手と同じような製品を作って独り勝ちするのではなく、ライセンスをして緩い競争をした方が得になります。その緩い競争を確保するためには、通常の設定で示されている通り(d'Aspremont et al. (1979, EMA))、最大差別化をした方が良くなります。また、この結果は、費用格差が立地前には分からない状況(不確実性のある技術投資をした下での立地選択をする状況)でも同じ事になりますので、最近出された不確実性のある技術投資のよって最小の差別化が実現する結果(Cristou and Vettas (2005, MSS), Gerlach et al (2005, JIndE))も覆る事になります。
紆余曲折した結果、何とか公刊できたのは良かったと思いますが、もう少し早く決まっても良かったと思っています。
Journal of Economicsという雑誌に公刊されることになった論文を紹介します。
"Privatization and entries of foreign enterprises in a differentiated industry" Toshihiro Matsumura, Noriaki Matsushima, Ikuo Ishibashi, forthcoming in Journal of Economics.
近年のグローバル化を踏まえ、外国資本が国内市場へ参入した場合の公企業の存在意義について、製品差別化の要素を取り込んで理論的に考察した論文です。ある国内市場に、公企業と国内民間企業と外国民間企業が存在し、各企業が差別化された製品を供給しています。この国の消費者は、価格が安く製品の品種が多いほど嬉しさが増す状況にあります。ここで、以下の2つについて考察しています。1つは、企業数が固定されている場合(短期)、もう1つは、民間企業が内外問わず自由に参入できる場合(長期)です。これら2つを比較し、各状況下での民営化の是非を議論しています。
外国資本が参入した場合の公企業の存在意義について理論的に分析した結果、民間企業が市場へ自由に参入できるか否かで結果が大きく異なることが示されました。参入が無い場合(短期の場合)、民営化で自国の厚生は悪化することが示されました。外国資本の比率が高いときほど、この傾向があることも示されました。一方、自由参入の場合(長期の場合)、短期の結果とは正反対で、外国資本の割合が高いほど民営化が厚生改善につながりやすいことを示しました。
この結果が出てくる理由は以下の通りです。公企業は消費者余剰を考慮するため、低価格にする傾向があります。この価格付けを参入企業は予想しますので、参入が見込まれる場合には、この低価格が民間の参入を抑制し、市場における財の多様性が損なわれます。参入が無ければ、公企業による低価格は消費者利益になり社会厚生を向上させることとは対照的です。この低価格は、外国企業の割合が高い程強く働きます。外国への余剰流出を防ぐために、公企業は低価格により競争を激しくして、外国企業の利益を減らそうとします。
この結果は、社会主義からの移行経済にある場合、公企業の民営化を行い外国資本の導入を積極的に行う方がよいことを示唆していると思います。また、民営化を行う際には、それを単独で行うのではなく、参入制限も緩和(廃止)することを同時に行わないと逆効果になりうることも示唆しています。
"Privatization and entries of foreign enterprises in a differentiated industry" Toshihiro Matsumura, Noriaki Matsushima, Ikuo Ishibashi, forthcoming in Journal of Economics.
近年のグローバル化を踏まえ、外国資本が国内市場へ参入した場合の公企業の存在意義について、製品差別化の要素を取り込んで理論的に考察した論文です。ある国内市場に、公企業と国内民間企業と外国民間企業が存在し、各企業が差別化された製品を供給しています。この国の消費者は、価格が安く製品の品種が多いほど嬉しさが増す状況にあります。ここで、以下の2つについて考察しています。1つは、企業数が固定されている場合(短期)、もう1つは、民間企業が内外問わず自由に参入できる場合(長期)です。これら2つを比較し、各状況下での民営化の是非を議論しています。
外国資本が参入した場合の公企業の存在意義について理論的に分析した結果、民間企業が市場へ自由に参入できるか否かで結果が大きく異なることが示されました。参入が無い場合(短期の場合)、民営化で自国の厚生は悪化することが示されました。外国資本の比率が高いときほど、この傾向があることも示されました。一方、自由参入の場合(長期の場合)、短期の結果とは正反対で、外国資本の割合が高いほど民営化が厚生改善につながりやすいことを示しました。
この結果が出てくる理由は以下の通りです。公企業は消費者余剰を考慮するため、低価格にする傾向があります。この価格付けを参入企業は予想しますので、参入が見込まれる場合には、この低価格が民間の参入を抑制し、市場における財の多様性が損なわれます。参入が無ければ、公企業による低価格は消費者利益になり社会厚生を向上させることとは対照的です。この低価格は、外国企業の割合が高い程強く働きます。外国への余剰流出を防ぐために、公企業は低価格により競争を激しくして、外国企業の利益を減らそうとします。
この結果は、社会主義からの移行経済にある場合、公企業の民営化を行い外国資本の導入を積極的に行う方がよいことを示唆していると思います。また、民営化を行う際には、それを単独で行うのではなく、参入制限も緩和(廃止)することを同時に行わないと逆効果になりうることも示唆しています。